大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和42年(ワ)621号 判決

原告

岩本光一

ほか一名

被告

上田親孝

ほか一名

主文

被告らは、各自、原告光一に対し金五二五、九五〇円、原告正彦に対し金二二〇、六三〇円を支払わなければならない。

原告らの被告らに対する残余の請求は棄却する。

被告らに、訴訟費用を負担させる。

原告らは、被告らに対し、勝訴の部分をかぎり、仮執行することができる。

理由

申立

(一)  原告らは、「被告らは、各自、原告光一に対し金五四〇、〇〇〇円、原告正彦に対し金二七〇、〇〇〇円を支払わなければならない。被告らに訴訟費用を負担させる。」との判決を求めたほか、仮執行の宣言をも求めた。

(二)  被告らは、(一)に対し、「原告らの請求を棄却する。原告らに訴訟費用を負担させる。」との判決を求めた。

主張

原告らは、請求の原因として、

(三)  原告らは、昭和四一年一一月二八日、京都市伏見区桃山町東町一番地先を南北に通ずる幅一三・八〇メートルの外環状線と東西に通ずる幅六・六〇メートルの旧山科街道とが交差する信号機のない十字路で、原告光一が軽乗用自動車を運転し、原告正彦がそれに同乗して、北側から同交差点に進入したところ、被告親孝が小型貨物自動車を運転し、そこの西側から東進してくるなり、原告らの乗用自動車の右側西へ、同人の貨物自動車の前部を衝突させ、原告光一に四股右前胸部多発性挫創および挫傷を、原告正彦に頭部挫創(外傷二型)両下肢右手挫創右前胸部打撲傷を負わせたほか、前記の乗用自動車に修理をくわえても全く使用することのできない程度の損傷を与えるにいたつた。

(四)  原告らは、かくて、それぞれ、本件の事故のため、物質上および精神上の損害、すなわち

(い)  金二七、〇五〇円、ただし、原告光一が前記のような傷害を治療するため、二日間を大島病院に入院しなお一八日間を通院又は療養しなければならなかつたのにもとずき、医療費又はそれに準ずるものとして金二〇、六五〇円、通院費として金六、四〇〇円を支弁したもの、

(ろ)  金四六、六〇〇円、ただし、同原告が事故時にビリヤード相互こと李相千の支配人として勤務し一日当り金二、三三〇円平均の給与をうけていたにかかわらず、前示のとおり二〇日間を休業しなければならなくなつたため、当然に得られるはずであつた収益を失うにいたつたもの、

(は)  金七〇、〇〇〇円、ただし、同原告が二六才で前記のような役職についていながら前示のとおりよぎなく休業させられたため、精神的に少しとしない苦痛をなめさせられたことの慰藉料として支払われるべきもの、

(に)  金三八〇、〇〇〇円、ただし、同原告が事故後に問題の乗用自動車の所有者である李相千の死亡したことにもとずく相続人の朴永子ほか五名から同自動車が前記のとおり損傷せられたためそれの価額に相当する損害(李相千は、事故日より二〇日前に、初登録の同自動車を金三八〇、〇〇〇円で買受けていたがゆえに、残価率は一〇割とみるべきである。)をうけたことに対する賠償を求める権利を譲受け、被告らに対するそれの通知もとどいているもの、

(ほ)  金六〇、〇〇〇円、ただし、同原告が上記の四口につき訴訟を起すことを弁護士に委任したため、着手料として金二〇、〇〇〇円を支払つたうえ、報酬として金四〇、〇〇〇円を支払うことを契約しているもの、

(へ)  金一一六、九五〇円、ただし、原告正彦が前記のような傷害を治療するため一〇日間を前同病院に入院し、いご四三日間を通院又は療養しなければならなかつたのにもとずき、医療費又はそれに準ずるものとして金八四、〇五〇円、付添料として金一〇、五〇〇円、通院費として金二二、四〇〇〇円を支弁したもの、

(と)  金八七、九八〇円、ただし、同原告が事故時にビリヤード相互の従業員として勤務し一日当り金一、六六〇円平均の給与をうけていたのに、前述のとおり五三日間を休業しなければならなくなつたため、当然に得られるはずであつた収益を失うにいたつたもの、

(ち)  金二〇〇、〇〇〇円、ただし、同原告が三一才で前記のような長期の療養を要する傷害を負わされたため、精神的に甚しい打撃をうけたことの慰藉料として支払われるべきもの、

(り)  金三〇、〇〇〇円、ただし、同原告が上記の三口につき訴訟を起すことを弁護士に委任したため、着手料として金一〇、〇〇〇円を支払つたほか、報酬として金二〇、〇〇〇円を支払うことを契約しているもの、を合算し、原告光一の分として金五八三、六五〇円、原告正彦の分として金四三四、九三〇円の損害をこうむらされた。

(五)  原告らが、しかし、本件の事故にあつたのは、被告親孝が当時、金沢建設株式会社の大津市内に請負つていた工事の下請をしている本田組の被用者であつたため、被告利之からたまたま同人の所有に属する問題の貨物自動車を金沢建設株式会社に使用させていたのを、本田組の用務のため運転しているうち、前記の交差点の西詰で、道路標識(京都府公安委員会が設置したもの。)にしたがい一時停止し左右の安全を確認しなければならない義務があつたのに、うかつにも、それをまもらないまま、走行したという過失をおかしたがためにほかならないから、被告親孝は加害者(民法第七〇九条)であるにくわえ、被告利之は同上の自動車の保有者(自動車損害賠償保障法第三条)であるにまぎれなく、各自に、前述の損害を賠償しなければならない義務があるものとすべきである。

(六)  原告らは、そこで、被告らを相手どり、各自に、原告光一の分として前記の金五八三、六五〇円から自動車損害賠償保障法にもとずく給付金三七、七〇〇円を差引いた残額のうち金五四〇、〇〇〇円および原告正彦の分として前記の金四三四、九三〇円から同様の給付金一六四、三〇〇円を差引いた残額のうち金二七〇、〇〇〇円の支払を求めるわけである。

被告らは、答弁として、

(七)  原告らの(三)で主張する事実につき、

被告親孝は、いうとおりを認める。

被告利之は、全部を不知として争う。

(八)  同じく(四)で主張する事実につき、

被告親孝は、いうとおりの数額の損害が生じたとの部分を除く残余は認めるけれども、同上の数額は争う。

被告利之は、いうとおりの債権の譲渡に関する通知のとどいたことは認めるけれども、残余の事実はすべて争う。

(九)  同じく(五)で主張する事実につき、

被告親孝は、いうとおりを認める。

被告利之は、いうとおりの貨物自動車が自己の所有に属することは認めるけれども、残余の部分は争う。(仮に、被告親孝がいうとおり同自動車を運転していたとすれば、無断でしかも同人の便益だけに運転していたものであるから、被告利之のがわでいうとおりの損害を賠償しなければならない義務はないものである。)

(一〇)  同じく、(三)で主張する金銭につき、

被告親孝は、高額にすぎ不当なものである。

被告利之は、原因がなく失当なものである。

と主張した。

証拠 〔略〕

判定

(一三)  原告らの(三)で主張する事実を検するに、

被告親孝との間では、すべて争がない。

被告利之との間では、〔証拠略〕を総合するとき、(甲号各証の成立は、弁論の趣旨から知ることができる。)原告らの主張するとおりをうべなうに十分である。

(一四)  同じく(四)で主張する事実を検するに、

被告親孝の認める部分および被告利之の争わない部分を除く残余は、〔証拠略〕を総合するとき、(甲号各証の成立は前出のようにして確めることができる。)

(い)  金二七、〇五〇円の全額

(ろ)  金四六、三〇〇円の全額

(は)  金七〇、〇〇〇円のうち金五〇、〇〇〇円

(に)  金三八〇、〇〇〇円の全額

(ほ)  金六〇、〇〇〇円の全額

(へ)  金一一六、九五〇円の全額

(と)  金八七、九八〇円の全額

(ち)  金二〇〇、〇〇〇円のうち金一五〇、〇〇〇円

(り)  金三〇、〇〇〇円の全額

を合算し、原告光一の分として金五六三、六五〇円、原告正彦の分として金三八四、九三〇円の損害をこうむつたものと認めるに足るけれども、通念上これらをこえる金額は妥当でなく、いうとおりに認めがたいものとすべきである。

(一五)  同じく(五)で主張する事実を検するに、

被告親孝との間では、何らの争をみない。

被告利之との間では自らの認める部分を除き、〔証拠略〕に徹すれば、(甲号各証の成立は、前出のとおりである。)同被告は金沢建設株式会社の代表者で、問題の貨物自動車を同会社が工事を請負つている現場でいわゆる自家用に使わせていたことおよびかねて同車両に対する自動車損害賠償保障法の保険料を支払つていたことが知られるとともに、被告親孝は前認のような下請人の被用者として前示の現場ではたらいていたことおよび同車両は暫時下請人の用務に使われはしたがすぐにもとどおり返還せられるはずであつたことがうかがわれるから、被告利之はさような車両の運行を支配し利益をうけるという地位にたつ保有者であつたと断じてさまたげなく、さすれば、法定の免費をうける事由を証明しないかぎり、本件の事故により生じた損害を賠償しなければならない義務を負うものとすべきにかかわらず、さような事由を証明することのできる資料は見当らないのである。(被告利之は、問題の貨物自動車が被告親孝のため無断でしかも他人の用途のため運転せられたとして抗争するけれども、前認のようないきさつであつてみれば、いうとおりにくつがえしえないものであるゆえ、被告利之の言分はとりあげるわけにゆかないのである。)

(一六)  同じく(六)で主張する金銭を検するに、

以上のとおりであれば、被告らは、各自に、原告光一の分として、前前項の金五六三、六五〇円から同人がすでに受取つたという金三七、七〇〇円を差引いた金五二五、九五〇円および原告正彦の分として前前項の金三八四、九三〇円から同様に受取つたという金一六四、三〇〇円を差引いた金二二〇、六三〇円を支払えば十分なのであるゆえ、原告らの請求は、さような限度でのみ正当として認容すべきも、これらをこえる部分は失当として棄却すべきものとし、被告らに訴訟費用の全額を負担させたうえ、原告らに勝訴の部分をかぎり仮執行することを許容したしだいである。

(裁判官 松本正一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例